遺書
  • 陸軍少尉  前田健三命
    昭和十九年二月二十四日
    中部太平洋方面にて戦死
    三重県鈴鹿市一ノ宮町出身 三十二歳

御両親様へ
只、一人ノ幸子ヲ北満迄寄コシテ下サッタ事ヲ、常ニ感謝シテヰマス。
少シノ孝養ヲ尽ス事ナク、カへッテ御心配バカリオカケシテ、申訳有リマセン。
若クシテ夫ニ離レタ幸子。幼クシテ父ト別レタ富美子及来春生レテクル子ノ好(よ)キ父母トナリ、祖父母トナッテ、軍人ノ妻トシテ遺児トシテ、
立派ナ日本人ニ育テラレル様、御願申上ゲマス。
私ハ今何ノ心配モナク、笑ッテ散リマス。

幸子へ
結婚以来二ヶ年、其ノ間軍人ノ常トハ言ヒナガラ、何等夫トシテノ愛情ヲ傾ケル事モナク、別レルノヲ御詫スル。
充分健康ニ注意シ、御両親ニ孝行ヲシ、子供ヲ有為(ゆうい)ノ士ニ育テラレヨ。
常ニ幾多編▲凌瀬肇淵薀譽真諭及其ノ妻、子ノ事ヲ思ヒ修養シ、婦徳ヲ収メラレヨ。
次ハ、編▲亮卞デ会ハウ。

富美子及来春生レル子へ
父ヲ知ラナイ諸子ハ、可愛想デアルガ、身体ヲ鍛ヘテヨク勉強シ、母ノ言フ事ヲ守ッテ立派ナ日本人ニナレ。
母ハ若クテ父ニ別レ、御身等ノ為ニ強ク生キ、凡(あら)ユル苦難ノ道ヲ歩ンデキタノデアルカラ、充分孝養ヲ尽クシ、イツイツ迄モ労(ねぎら)ッテクレ。
父ハイツモ諸子ノ幸福ヲ祈ッテヰル。

(原文のまま)

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