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家紋事業進捗

拝殿耐震補強及び消防設備

  • 事業進捗令和3年06月01日

    拝殿耐震補強工事 竣工報告


     「拝殿耐震補強工事」の施工業者である木内修建築設計事務所による、竣工報告を掲載いたします。


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    拝殿耐震補強工事 竣工報告

    木内修建築設計事務所代表・東京大学大学院非常勤講師 

    木内修


    この度、御創立150年記念事業の一環として行われた靖國神社拝殿の耐震補強工事が完了いたしました。

    平成23(2011)年3月11日には東日本大震災が発生し、最大震度7が観測されるなど大地震の発生が憂慮される中、実施された補強工事でありました。


    1.内外観・使い勝手を変えない耐震補強


    靖國神社拝殿の耐震補強の方針として、以下の3点を目指しました。

    (1)耐震補強後、見た目の姿が変わらない。また、使い勝手が変わらない補強方法とする。

    (2)鉄骨等には頼らず、日本の伝統木造建築の構造特性を生かした方法とする。

    (3)耐震性能の目標値として、建物の供用年限中に発生する可能性のある震度6強~7程度の最大級の大地震に耐えるものとする。


    拝殿は明治34(1901)年に造営され、入母屋造り千鳥破風向拝付と称される様式で、四方に縁を回らし、延べ面積366.94㎡(111.00坪)もある大きな建物です。

    また、長押から下に壁がなく開放的で、日本建築の伝統的な手法を継承した美しい建物であります。


    耐震補強を行うに当たり、まず、この建物のどのあたりが弱いのか検証を行いました。日本の伝統木造建築は壁や柱と貫等の横架材の接合部の耐力で地震に抵抗します。

    しかし、拝殿の耐震強度を検証してみると、地震力に抵抗する壁がなく、また、抵抗する架構接合部数も少なく、地震力に対する耐力不足が一目瞭然です。

    しかし、建物は壁のない形態によって、機能が果たされているため、新しく壁を追加することや、横架材を増やすといったことはできません。


    2.限界耐力計算による耐震診断


    伝統的な木構造のものを対象として作られた耐震診断法としては、文化庁が重要文化財を対象にして作った診断法があります。

    ただし、その方法は次に述べる「限界耐力計算」の方法と実質的に同じです。

    そこで今回は、耐震診断、耐震補強設計とも、限界耐力計算による検証を行いながら進めていきました。

    本来、柱と桁・梁等の接合部に原則として金物補強を行わない日本の伝統木造建築は、伝統木造特有の変形能力によって耐震性能を発揮するため、従来の壁率計算による耐力重視型の設計法にはなじみませんでした。

    しかし、平成12(2000)年の建築基準法改正による性能規定化により、仕様規定によらなくてもよい検証ルートとして、限界耐力計算が位置づけられました。

    それにより、継手・仕口(接合部)に金物を使わない伝統木造建築も建築基準法の枠組の中で設計が可能になりました。


    限界耐力計算とは、建物を等価な一質点系の復元力特性を持つ系にモデル化し、設定された地震動の応答スペクトルとの関係から、等価線形化法により応答を求め、応答値が限界値以下であることを確認する方法です。

    限界値としては損傷限界と安全限界のふたつを設定します。

    損傷限界とは構造体に損傷が発生しない範囲で設定する値で、稀に発生する地震(数十年に一度くらいの確率で発生する震度五程度の中地震)に対して、構造部材の応力または建物の応答変位がこの値以下であることが求められます。

    安全限界とは構造体が倒壊・崩壊しない範囲で設定する値で、極めて稀に発生する地震(建物の供用年限中に発生する可能性のある震度6強~7程度の最大級の大地震)に対して構造部材の応力または建物の応答変位がこの値以下であることが求められます。


    耐震診断の結果、補強前の拝殿の最大耐力は、梁間方向が235kN(24t)、桁行方向が約247kN(25t)でした。

    伝統木造建築の場合、各種実験データにより、損傷限界変位は層間変形角で1/120rad、安全限界変位は層間変形角で1/15rad程度までが考えられているので、拝殿では、安全限界変形角を建物の用途上1/20radと設定しました。

    1/20rad以下に抑えるためには、実大実験や耐震要素別実験等多くの事例の検証の結果、建物の耐力が建物自体の重量の約3割以上必要になります。

    拝殿の建物重量が1686.5kN(約172t)であるから、建物の最大耐力として約506kN(約52t)必要ということになります。

    つまり、梁間方向、桁行方向とも2倍以上の耐力アップが必要です。


    3.補強方法の考案 長押・小壁による補強


    冒頭に挙げた三つの条件の下に、現地調査・確認を行い、補強案を作成し、限界耐力計算による検証を経て、最適な補強方法を考案しました。

    耐震要素として評価できる部分は軸部の柱脚から柱頭までです。

    ここに見られる耐震要素は、桁、長押、貫、足固貫および柱の傾斜復元力であるが、これらの中で耐力アップの余地が残っている要素として長押があります。

    また、新たに耐震要素として加えられる部位として小壁があります(写真❶)


    長押は現在、三角形に長押挽きされて化粧材として納まっていますが、既存の長押と新材を構造用接着剤で接木を行うことにより矩形の長押とし、構造材として働くように改良しました。

    柱と長押が相互にめり込みあうような欠き込みをつくることで、変形時のめり込みによる耐力アップを期待し、これが最も効果的に働くような仕口を作りました(写真❷)。


    長押を柱に止めるためには、古代から使われている和釘を用い、二本打ちとしました。

    こうすることにより、変形時のゆるみによる耐力低下はほとんどなく、非常に安定した接合部ができます。

    もうひとつの耐震要素である小壁は、既存の板を残しながら補強材として力板、力貫を交互に納め、それぞれをダボという木片で繋ぎ、せん断耐力を高めました(写真❸)。

    また、耐震補強の効果を高めるため小屋裏に火打梁による構面を設け、小屋裏の構面の一体性を高めています。


    これらの耐震補強を限界耐力計算により検証してみると、大幅に耐力アップし、設計の目標値として掲げた安全限界変形角R=1/20radに対して、梁間方向は1/27rad、桁行方向は1/32radとなり、梁間方向、桁行方向とも設計の目標値を満たしています。


    ところで、これらの変形角の時、建物はどれだけの地震力に耐えているのか見てみます。

    極めて稀に発生する地震に対する最大応答せん断力は、梁間方向では590kN、桁行方向では733kNとなり、建物の自重に対する比率はどちらも当初の目標値の30%を超え、梁間方向が35%、桁行方向が43%となり、十分な耐震補強工事が行われた建物として甦りました。


    今後、拝殿がより安全な建物として使われ、親しまれていくことを祈っております。


    写真❶~❸はこちらよりご覧ください


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    【社報『靖國』令和3年6月号掲載】

  • 事業進捗令和3年02月01日

    拝殿耐震補強工事 経過報告


     「拝殿耐震補強工事」の施工業者である清水建設株式会社による、経過報告を掲載いたします。


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    御創立150年記念事業 拝殿耐震補強工事 経過報告

    清水建設株式会社 現場管理責任者 小林 弘一朗


    建物とのご縁と工事中の配慮


    靖國神社拝殿は明治34年に創建された120年の歴史のある建物で、弊社元施工の大変ゆかりある建物であり、歴史に敬意を払いながら日々の工事を行っております。

    拝殿の工事ということで、工事期間中も参拝者の方々が本殿を見ながらご参拝できるよう拝殿正面に仮設扉を設け、正中部分を空けるよう仮設足場を組み立てています。作業員は正中を横断するとき、本殿に向かって一礼し神聖な場所での工事として配慮しながら作業を進めています。秋季例大祭と春季例大祭の間の約6か月という限られた期間の中で、大きな音が発生する作業を祭事の無い時間に充てる作業時間調整と、工事の進捗に合わせたタイムリーな資材搬出入を計画することで無駄なく効率的に作業を進められるよう工夫しております。


    安全管理について


    神社関係者、参拝者の方々が近くにいらっしゃる中での作業となるため、資材運搬時の接触事故や材料飛散による事故が起こらないよう、区画や時間帯の確認、飛散防止養生の徹底を図るとともに、主作業場所となる足場上は水平ネットの設置と安全帯の使用徹底というダブルセーフティーで墜落事故を絶対に起こさないように日々安全管理に努めています。

    また、昨年より続いております新型コロナウィルス感染予防の対応として、毎朝全作業員の検温及び問診と、手洗い、消毒、マスク着用徹底などの感染防止対策を実施して工事を進めております。


    材料検査について


    今回の工事では、奈良県の吉野桧材を使用しており、特に壁に用いる耐力壁板材や化粧壁板材については、吉野での検査を4回実施し、人工乾燥直後の含水率が15%以下であること、節の有無等、耐力壁板・化粧壁板合わせておよそ800枚の材料を入念に検査し選定しました。

    また、加工作業を行う山形の工場でも選定した材料の木取り検査と化粧壁板材の配置確認を行いました。(写真❶)


    工事項目と品質管理について


    今回実施している耐震補強工事の主な項目としては、長押の補強、柱及び長押の仕口形状の見直し、和釘の打ち込み、小壁板部にダボを使った耐力壁板の設置(写真❷)、小屋裏に火打梁を設けた水平構面の補強となります。

    小屋裏の火打梁による補強については、事前に小屋裏内で3Dスキャンによる計測を行い、計測データから補強計画検討用の図面と3Dプリンターによる模型を作成して施工計画を立案し、検討打合せを効率的に行いました。(写真❸)

    和釘については事前に打込試験施工を行い、和釘の効果が十分発揮できる適切な先孔の径と長さを3種類選定確認しました。(写真❹)ダボを使った耐力壁についても、事前にモックアップを作成して、組立手順や納まり方の確認、検討を十分に行った上で現場での作業へ展開しております。(写真❺)

    柱及び長押の仕口加工は高い精度が求められます。そのため、各々の位置形状に合わせて制作したベニヤの仕口型板を用いて現場で既存柱の加工を行い、更に山形の工場で加工した長押補強材を現場に搬入して既存柱の加工部分に当てがい、位置と寸法を確認し微調整をした上で、再度山形の工場に運搬して既存長押材と補強部材の矧ぎ合わせの作業を行っております。(写真❻)


    最後に


    現在、工事は外周部の補強工事が終わり、内周部の補強工事及び小屋裏補強工事を進めております。4月初旬の竣工引き渡しにむけて最後まで事故怪我無く、神社様運営に支障のないよう細心の注意を払い、目標とする耐震強度を確保できるよう丁寧なしごとを粛々と進めてまいります。

    工事中何かとご迷惑をお掛け致しますが、引き続き御理解・御協力を何卒お願い申し上げます。


    写真❶~❻はこちらよりご覧ください

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    【社報『靖國』令和3年2月号掲載】



  • 事業進捗令和2年11月01日

    拝殿耐震補強工事着工

    御創立150年記念事業の一つとして計画され、工事延期となっていた拝殿耐震補強工事が、設計:株式会社木内修建築設計事務所、施工:清水建設株式会社、管理:株式会社シグにより、1022日に着工。

    明年4月初旬の竣工(予定)までの間、中庭に設営した仮拝殿で参拝の皆様をお迎えいたします。

     

    工事中は何かとご不便をお掛けいたしますが、ご理解の程お願い申し上げます。


  • 事業進捗平成31年02月01日

    記念事業進捗状況報告

    御創立150年記念事業内苑計画として実施してきた拝殿錺金物(かざりかなもの)補修工事及び霊璽簿奉安殿(れいじぼほうあんでん)劣化箇所補修工事が昨年12月に完了しました。


     拝殿と南北の行幸門(ぎょうこうもん)の錺金物は平成元年に昭和の大修築として補修を実施してから約30年が経過しており、錺金物の劣化が顕著になってきておりました。そのため、昨年1月に錺金物を各箇所より取り外し、専門の工場にて1年をかけて補修を実施しました。


     補修は古い金箔を一度全て剥した後、下地調整を経て四回にわたる金箔漆箔(うるしはく)押し工法を用いて仕上げられました。その結果、錺金物は以前にも増して鮮やかに光り輝くものとなり、修復された錺金物は年末に全て元の場所に戻され工事は完了しました。 


    また、昭和47年に本殿裏に建てられた霊璽簿奉安殿(鉄筋コンクリート銅板葺き神明造り)は、建設より40年以上が経っているため建物全体の劣化調査を行いました。その結果、屋根銅板部分を除くほとんどの箇所に損傷があり全面的に補修を行う必要があると判断され、工事を実施する運びとなりました。


     この度の工事では、まず建物全体を覆うコンクリートが中性化し脆く壊れやすくなっているため、その状態を改善するための処置工事や建物内部の鉄筋の劣化補修及び防錆(ぼうせい)処理に加えて、鉄筋まで雨水が浸入しないよう建物全体に防水塗装を施しました。


    以上のような作業を経て年末に工事は完了し、建物は建立された当時を思わせる姿に復元されました。 


    (企画課)

  • 事業進捗平成30年12月01日

    記念事業進捗状況報告

    去る10月、拝殿正面錺金物(かざりかなもの)補修工事、第一鳥居美装工事、大村益次郎銅像美装工事が起工しました。施工各所には作業足場が組まれ、工事終了予定の年末まで作業が進められます。

     

    拝殿屋根部分の錺金物は、前回の補修から約30年が経過しており、地金の補修も併せて行っております。補修完成後には、伝統技術を継承する美しい錺金物をご覧いただきたいと存じます。

     

    第一鳥居は昭和49年に再建されて以来、44年が経過しています。調査を行った結果、躯体(くたい)の劣化などは一切なく問題なしと判断されましたが、想定外の赤錆の発生や大気汚染による汚れが近年目立つようになっておりました。その為、今回塗装を塗り替える美装工事を実施しており、工事終了後には再建当時の色に復元される予定です。

     

    また、外苑参道の大村益次郎銅像は調査の結果、銅像本体の傷みは少なく状態は良好でありましたが、鋳鉄(ちゅうてつ)製の台座部分は第一鳥居と同様、錆が多く出ており、今後の劣化が懸念されると判断されました。そのため今回錆落としと専用のコーティング剤を塗布し、劣化を防止し鋳鉄本来の色が維持できる作業を行います。

     

    いずれの工事も完了は本年年末を予定しておりますので、ご参拝の折には是非ご覧いただきたいと存じます。

     

    (企画課)

  • 事業進捗平成30年04月17日

    本殿・拝殿防災設備改修工事竣工

    去る3月30日、本殿裏側にて「本殿・拝殿防災設備改修工事竣工清祓式」が、小堀宮司以下関係職員並びに施工業者参列のもと執り行われました。

    本殿の建立は明治5年、拝殿は明治34年と、いずれも100年を超える歴史を持つ木造建築です。今回、経年による設備の老朽化に加え、神社仏閣に対する放火等の事件が後を絶たない昨今の状況をふまえ、御創立150年記念事業の一環として防災設備の大幅な改修工事を昨年11月より進めております。

    これまでにも、靖國神社では防火対策として、設置義務のある消火栓はもちろん、放水銃やドレンチャー設備の設置など、本殿のお護りと参拝者避難経路確保を目的とした防災設備の充実化をはかってまいりました。

    今回の工事では、本殿・拝殿の延焼を防ぐ為、老朽化していた既存のドレンチャー設備から自動首振り式の放水銃への改修を行い、更に火気の早期発見を補助する為に、各所に炎検知器を新設いたしました。3月19日に行われた稼働試験では、各防災設備が正常かつ効果的に機能する事を確認しております。

    今後も、拝殿耐震補強工事や外苑整備計画等、平成31年の完遂を目指して、各所で記念事業に関係した工事が続きます。期間中は何かとご不便をお掛けしますが、なにとぞご理解、ご協力をいただきたく存じます。


    (企画課)

  • 事業進捗平成29年12月18日

    拝殿金物補修工事を実施

    平成29年10月にお伝えした拝殿耐震補強工事の一環として、拝殿の錺金物(かざりかなもの)の補修工事を昨年11月6日より実施しております。現在拝殿内の錺金物は取り外しを終了しており、今後は、大型錺金物の取外しを行う予定です。

    工事に伴い平成31年4月まで各所に工事足場が設置されますが、拝殿前は従来通り御参拝戴けます。御不便をおかけしますが、何卒御容赦下さい。


    (企画課)

  • 事業進捗平成29年12月18日

    本殿・拝殿周辺防災設備改修工事に着手

    現在、本殿・拝殿周辺では不測の事態に備え、防災設備改修工事が昨年の11月9日より進められています。

    当工事では最新設備を導入し火災の早期発見に努め、速やかな初期消火活動を行える計画になっています。
    また、本殿・拝殿に延焼することを防ぐため、既存のドレンチャーから、自動首振り放水銃に改修します。

    現在は、放水用の配管工事等を行っており、今後、炎検知機設置工事等を順次行い、3月下旬には工事が完了する予定です。


    (企画課)

  • 事業進捗平成29年10月20日

    拝殿耐震補強工事について

    拝殿の耐震補強工事は、現状の外観・使用用途を変えず、更に鉄骨等に頼らず日本の伝統建築の構造を生かした手法により耐震補強を行い、震度6~7程度の揺れに耐える事を目標としました。

    着工に先駆け、拝殿床下調査の折には、柱と礎石の間に建物の横滑りを防止する「石ダボ」の存在が確認されました。また各柱の傾き等、数度に亘る調査を重ねて平成30年の秋に本格的な着工を迎えます。

    工期は約半年、平成31年4月竣工を予定しています。工事中は仮囲いが設置され、何かと御不便をお掛けしますが何卒御理解、御協力を戴きたいと存じます。


    (企画課)

家紋本殿・拝殿・霊璽簿奉安殿 関連工事について

本殿諸整備 拝殿耐震補強及び消防設備 霊璽簿奉安殿補修
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